理想と現実の狭間に
G7首脳が5月19日、広島平和記念資料館を訪問し記帳した。岸田首相の「核兵器のない世界を目指す」を始め、各国首脳の記帳内容は概ね核兵器廃絶や平和希求と言った理想を掲げたものであった。そのG7広島サミットに招待されたインドは今年、20カ国・地域(G20)や、中国が中心となりロシアなどと組織する上海協力機構(SCO)の議長国を務めている。
同サミット終了後インドのモディ首相は24日、日本で前倒し開催された日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クワッド)」会合に加えて9年ぶりに豪州を訪問、シドニーでオーストラリアのアルバニージー首相と会談した。インド系住民による両国首相歓迎式典には2万人もの参加があったとの報道。台頭する中国睨みの連携確認が主たる目的だが、EV用鉱物資源などの中国依存を下げる必要性に駆られたものでもあったようだ。
また、広島サミット開催前の5月初旬、SCOの外相会合がインド南部ゴア州ベノーリムで開催され、その前月(4月)27日にはインドのシン国防相が中国の李尚福国務委員兼国防相とインドの首都ニューデリーで会談している。その翌28日、シン国防相はロシアのセルゲイ・ショイグ国防相とも会い、両国の友好関係強化を表明している。その一方で、中国の李尚福国防相は5月8日、パキスタンのニアジ海軍参謀長と北京で会談し、地域の安全保障における両国の協力拡大を打ち出した。
中国やロシアが、反欧米姿勢を鮮明にする中で中立的立場を堅持するインドとの関係維持を重要視することは分るが、インドの八方美人的対応をどう理解したらよいかに戸惑う人も多いのではないか。そんな時一つの解となるのがインドのジャイシャンカール外務大臣の発言である。余談だが、同氏は日本のインド大使館で筆頭公使(代理大使)を務めたことも有り、現奥様はジャイシャンカール氏の秘書をしていた日本の女性である。
ジャイシャンカール氏はSCOに参加した際、その不明瞭な立場に対する質問に対し「国益に沿ったもの」と答え、また、インドのNDTV(ニューデリーテレビ)の報道では、昨年11月にモスクワで行ったロシアのラブロフ外相との会談時のスピーチで「オイルとガスの消費で世界第3位のインドは、それほど(外貨)収入が無いので、それに見合った価格で提供してくれる先を求めざるを得ず、友好的な印露関係は我々にとって好都合」と明言している。その結果、インドが輸入する原油に占めるロシア産原油の割合は、2021年には2%だったが、2022年には10倍のほぼ20%に達したという。ロシア産原油の購入を増やしたことで、インドは昨年の会計年度で約50億ドル(約6700億円)を節約したとされる。
現在の国際情勢を見極め、親欧米(親中ロ)といった特定の政治色に染まらず、冷徹に漁夫の利を得ていく。付き合うこちらも、したたかになる必要がある。(了)