2022.09.25

したたかなインド外交の操り人

 日本で臨時大使(筆頭公使)を務め、中国大使、米国大使を歴任、その後インド外務省事務次官で退官、傘下に約100社を抱えるタタ財閥の持ち株会社Tata Sons預かりとなる。

 モディが2019年、再選されると民間人として外務大臣に任命され、その後モディの右腕であるAmit Sha(現内務大臣)のグジャラート州上院議員席を譲り受け、任命時に戻りインド憲法下正式に外務大臣になった。(注)インド共和国憲法では、大臣は国会議員資格を有することが条件となっている。

 2019年9月には、米国テキサス州ヒューストンのフットボール場で5万人規模の大観衆を集めた大会を取り仕切り、トランプ大統領(当時)まではせ参じさせた、モディが絶大的信頼を寄せる男、彼の名はS. Jaishankar(ジャイシャンカール)。

 ウクライナに侵攻し、欧米諸国から経済制裁をかけられ、原油の販路が狭まっているのを良いことに破格の値段で原油取引を主導、その裏で今回のモディ発言(今は戦争の時代ではない)を飲ませる。インドは自国で使用する原油の80%強を輸入に頼っており、国家予算(約50兆円)の20数パーセントほど(約13、4兆円)の外貨流出(輸入)を余儀なくされている。少しでも原油価格を引き下げられれば、赤字の貿易収支改善に繋がる。

 その一方で、中国との国境紛争を逆手に取り、世論を味方に付け、自国権利を主張しつつも中国との融和を呼びかける。ロシア、中国の脅威を暗に認め、クワッドに加入、インド太平洋の平和を訴える。現下の国際情勢では、その行動を表立って避難できる国はないと踏んでの確信犯的言動である。非常に外交手腕にたけた人物としてインドのエリート層からは高く評価されている。

 古代のヨーロッパとオリエント世界を統一したアレクサンドロス(BC365-323)の家庭教師であったと言われるアテネの哲学者アリストテレスは、折に触れアレキサンドロスに「論理的に正しくても、人間世界で正しいとは限らない」と教えたらしい。国の取るべき自覚も大事だが、それはそこに住まう国民あってのものだということもしっかり頭に叩き込んでおくことも重要だ、とのことだろうか。(了)

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