インドビジネスの暗部とインド政治のかかわり
インド最大野党の元総裁で、1991年に暗殺されたインドの名門ガンディー家のラジブ・ガンディー元首相の子息であるラフル・ガンディー(52歳)が3月23日、現首相と同じ「モディ」姓をめぐり、モディ首相のおひざ元であるグジャラート州スーラット地裁より「名誉棄損罪」に問われ禁固2年の有罪判決を受け、下院議員資格を剥奪された。2019年の総選挙前のグジャラート州での選挙集会で、『泥棒の姓は何故みんな共通して「モディ」なんだ』と、あたかも現職のモディ首相を揶揄(名誉棄損)するような発言を咎められたものだ。
グジャラート州に行ってみれば分るが、可なりの人の姓が「モディ」で、ラフルは「モディ首相」への政治的個人攻撃を意図したのだと思うが、パートタイム・ポリテッシャン(アルバイト政治家)と言われるくらいで、政治へのコミットと政治的センスの無さを露呈し、政敵に絶好の反撃チャンスを与えてしまった。
泥棒と表現するのは適切ではないと思われるが、昨年には純資産約15兆円を誇り、リライアンス財閥のアンバニを抜き、アジアナンバーワン(世界2位)の大富豪にのし上がったゴータム・アダニ(Gautam Adani、60歳)という人物がいる。グジャラート州の最大商業都市アーメダバードに拠点を構えるコングロマリットを率い、モディが2014年にインド首相に就任してからの10年間足らずで、グループ売り上げも約10倍の6兆円ほどになったと言われる。
モディが全国遊説するときには、アダニのプライベートジェットが使われていたらしく、自国の大型入札案件や、豪州石炭鉱山買収案件など、ことごとくアダニが落札している。その上、モディに批判的な報道機関NDTV(ニューデリーTV)の敵対的買収にも乗り出している。そのアダニ財閥に1月24日、空売りで知られる米投資会社、ヒンデンブルグ・リサーチは「2年間の調査結果、アダニが市場操作や不正会計を行っている」としてアダニグループに対してショート(空売り)を仕掛けたことを発表した。その結果インド市場でアダニグループ株は急落、25~26日の二日間だけでグループ全体の時価総額が約6兆円吹っ飛んでいる。アダニは「根も葉もないこと」と反論する一方、インド政府は原因究明や対応措置等の具体的行動には出ていない。
モディ首相は貧困撲滅を標榜しつつも、同目標が含まれるSDGs(持続可能な開発目標)の22年国連ランキングでインドは163か国中121位、今年議長国であるG20の中で最下位だ。中立国を装い、自国に有利な外交を展開、国力強化を進めるが、その一方で、貧困にあえぐ人たちの救済施策は到底十分とは言えない。心の痛む現状は、そのグループに含まれる人にしかわからないとしたら、何とも悲惨だ。(了)