独裁政治への道?
2002年2月に千人以上の死者が出たと言われるインド西部の都市グジャラートで起こった惨劇(ヒンドゥー教徒とイスラム教徒間での殺戮暴動で、イスラム教徒790人とヒンドゥー教徒254人が死んだ)を、英BBCがドキュメンタリーとして番組放映したが、モディ政権(情報及び放映省)は、インド国内で同番組が視聴できないようにユーチューブやツイッターの運営会社に対し必要な措置を取るよう指示、両社は同指示に従った。これは2021年に制定されたIT Ruleと銘打った(規制)法に基づく指示とのこと。
グジャラート惨劇が起こった時の同州首相は現在のインド首相モディだ。そのモディは他関係者と共に、同惨劇阻止の指示を意図的に遅らせたとして訴えられた。同裁判は長期にわたり継続されたが昨年(2022年6月24日)、インド最高裁により訴えは棄却され、モディの無罪が確定している。米国などは同惨劇を重大視し、グジャラート州首相だったモディに対し米国査証の発給を拒否していた(ただし、モディが2014年、インド首相に就任すると同措置は解除されている)。
現政権が何と言おうと、グジャラート惨劇は事実であり、事実に反しない限りにおいて如何様な報道が行われようと、それを社会から抹殺する行為は許されないはずだ。インド国内では、主としてヒンドゥー教徒と思われるが、インド政府の措置に賛同する諸々の声がツイートされている。BBCの報道がフェイクとして糾弾され、闇に葬られるのをよしとする風潮は非常に危険だ。ただし、何がフェイクであるかの判断は非常に難しいことは言うまでもないが、自分たちにとって好ましくないことはフェイクと決めつけるやり方は、自己中心的独善と何ら変わることはない。
インドはこれから2024年5月に予定されている総選挙に向けた選挙運動が活発になるが、その延長線上で今回のような取り締まりが行われているとしたら「世界最大の民主主義国家」と自称することと矛盾する。「世界の矛盾、インドの国益」(日経電子版2023/1/6)とうそぶいたインドのジャイシャンカール外相。他人(他国)がどんなに困ろうと、自分(自国)が良ければ全て良し、では開発途上国の盟主として、先進国との対話促進役を務めていくという主張は自己撞着であり、成り立たない。(了)