路上から牛が消える日
90年代初め、インドに駐在していたとき、借家に大きなサルが現れ、屋根で飛び跳ねて遊んで(威嚇して?)いました。近くに軍隊の緑豊かで広大な敷地があり、そこには無数のサルが住んでいたので、当たり前といえば当たり前なのですが、日本で民家に大猿が現れたら、テレビや新聞がほっておかないでしょう。我が家は一躍脚光を浴びることになりかねません。
街中には野良牛(本当は持ち主がいて、街中に放牧しているらしい)がたむろし、残飯をあさっています。最近は、捨てられているごみの中にビニール袋などがあり、それを食べた牛が死ぬという、悲惨なことも起こっています。そこかしこに落し物もそのまま放置されていて、衛生上も良くないし、車の増えた道をノタノタ歩かれたのではたまりませんので、我々なら単純に、市内から牛を排除すれは良いのでは、と考えると思います。しかし、インドは、全土が自然動物園のようなもので、動物愛護の国というか、地球上に生きとし生ける物は、そこに住むことにおいて等しく平等で、人間はそこに自然に調和して生きていかなければならない、といった考えが根強いお国柄ですから、下手をすると動物虐待と取られかねません。
したがって、強制排除という論理には相当な無理が伴います。ではどうするかということになりますが、自然にそうなるように仕向ける必要があります。世の中よく出来ていて、インドの近代化が進むにつれて、牛もその辺を理解し(?)、自然と舞台の中心から袖のほうに引き下がらざるを得なくなってきている、というのが現状です。国道沿いに高速道路や立体交差が出来てきては、さすがの野良牛も最早そこまでの遠征には及ばないのでしょう。こうして、徐々にではありますが、直接的な動物虐待を避けつつ、牛を道路から遠ざける、すなわち、道路整備が徐々に進んでいると言えます。ですから、インドでは強制的にとか、無理を承知で事を進めるとか、そういったことが容易に出来るなどとは期待しないほうが良いかと思います。自然体で、忍耐の要ることですが、なんか最終的にはそのほうが、地球上に生きとし生ける物にとって良いのかもしれません。こんな風に考えるのも日本人だからであって、彼の国の人たちは、そんなことすら考えもせずに日常を過ごしているのかもしれません。相互理解が必要な所以ですね。
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