説明し、納得しあう努力―本当の意思疎通とは
日印IT(情報技術)ビジネスの拡大が思われているほど進んでいない。少子高齢化に伴うものか、IT技術者が大幅に不足するといった趣旨の新聞や雑誌の記事に良く出くわす。そのためIT人材が豊富なインドに目が向けられ、日本企業は何とかしてその力を我が物にしようと努力しているが・・・。
いろいろ原因は挙げられている。一番大きな障害は言語ということで、それ以外に商習慣なども上位にくる。その辺の原因を考えると、なんか日本の政治の問題点と類似したものが浮かび上がってくる。この辺を非常にうまく表現した人がいる。コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授である。同氏の近著(政治と秋刀魚‐日本と暮らして40年)によれば、日本の五五年体制(保守政治)を支えたのは「非公式な調整メカニズム」らしい。すなわち、本音と建前があり、表向きは極めてフォーマル(建前)だが、それでは何も決まらないので、非公式な場(本音)で話し合うことが必要になる。そのメカニズムがうまく作動し、長きにわたり保守政権の存続につながったと。
日本のIT業界も似たようなものかもしれない。フォーマルな形はとるが、それは表向きの形式的な型(フォーム)を定義しているだけで、中身(サブスタンス)はまだ決まっていない。その辺は作業を進めていく過程で、どたばたしながら決めていく。その過程で「非公式な調整」が大きな役割を果たす。中身がよければ外見など我関せず的なインド人からしてみると、想定外で、理解の出来ない空間がそこに横たわる。その結果、双方が自分の立場を主張して譲らないと、プロジェクトは失敗に終わり、「インド人は使えない」となる。
そこで重要になるのが相手との意思疎通(コミュニケーション)能力ではないか。日本のソフト開発体制が一朝一夕では変われないのであれば、その間のギャップを双方でいかにして埋めるかを徹底して議論する必要がある。開発体制に関する双方の認識ギャップを放置しておいて、「自分達のやり方で(日本では)従来うまくいっていたのだから、それをフォローしろ」では土台無理がある。あたかも夜桜を見ながら一杯やったから意思疎通は完璧、などと錯覚するようなものだ。ノミニケーションの利点を否定するわけではないが、意思疎通は素面のときにやるものと考えている人たちにとっては非常につらい。
日本の政治がバブル崩壊と共に変わらざるを得なくなり、「非公式な調整」が機能しなくなり、新たなステージを迎えているように、日本のIT企業もボーダレスな時代を迎え、新たなステージへの変革を受け入れる覚悟を持ち、その戦略を練る必要があるのではないか。
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