蛇使いから、ねずみ使いへ
所要でバンガロール所在のインドを代表するIT企業(インフォシス)に立ち寄った。私がインドに赴任していた90年代初めに訪問したときには、たったの一棟だけの企業だったものが、今やキャンパスと言われる広大な敷地に2万人もの社員がソフト開発にいそしんでいる。
インドのソフト産業の発展は目覚しい。91年当時1億ドル足らずであったソフト関連の輸出が毎年30%の伸びを記録、2,3年後には600億ドルになると予測されている。その数値がどれほど凄いかと言うことを簡単に示すと次のようになる。すなわち、インドは自国で消費する原油の3/4を輸入に頼っており、私の試算では、一バレル30ドルで換算して約200億ドル必要だったから、今ならその3倍の6百億ドルが必要になる。しかし、消費量を現状のままとした場合には、インドはソフト輸出だけで自国で消費する原油の支払いをまかなえることになる、と言うわけだ。その上、インドのソフト輸出の伸びはそう簡単には止まりそうも無いから、早晩原油輸入代金額をソフト輸出額が凌駕するだろう。
インド赴任中に私が撮った写真の蛇使いの少年が、1回コブラを踊らせて得られる金額がせいぜい数十ルピー程度だったと記憶している。今の円価にして100円程度である。そして、この少年がどんなに懸命に稼いでも1日5,6百円にでもなれば御の字だろう。ところが、この蛇を来年の干支であるねずみに変えると、150円が千倍の15万円にも成り得るのだ。ねずみとは英語のマウスである。すなわち、コンピューターを使ったソフト開発というのが種明かしだ。
マイクロソフトのホットメールを開発したのはインドの若者、サビエル・バティア氏である。21歳で渡米、20台半ばでエンジェル(経済的援助者)から30万ドル(約3千万円)の提供を受け、シリコンバレーで2年掛けてホットメールを商品化した。これを買収したのがマイクロソフトで、最終的な買収金額は4億ドル(約440億円)であったらしい。正に現代の錬金術である。コロンビア大学のジェフリー・サックス教授は、「貴金属の付加価値は有限だが、ソフト開発の付加価値は無限大。インドがこの力をいかに使うかで、インドの今後の経済発展にも大きな違いが出てくる」といった趣旨のことを言っている。
1960年代からシリコンバレーなど米国に流出していたインド人技術者(ソフト頭脳)のインドへの還流が始まっている。この3年間で約6万人のインド人技術者が帰国したらしい。これらの人材が有効に機能すれば、ますますインドの経済力が増すことに間違いはない。そんなインドの人材を日本企業もうまく取り込むことを考える必要がある。さもないと、日本のソフト産業は人材難で立ち行かなくなってしまうのではないか。
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