決められない政治のつけ
10月4日のボンベイ平均株価(SENSEX)は19,058と、昨年7月7日以来15カ月ぶりの高値をつけた。また為替(対米ドル)も51.77/75と今年4月以来の高値となった。株価上昇とルピー高をもたらしたのは、政府が9月に発表した複数ブランド小売や航空行政などの一連の経済改革(外資への開放)を断固として行うという政治の意志を歓迎してのものだ。ところが、それからほぼ1カ月半の先週末(11月23日)の株価は18,507まで落ち込み、為替は大幅ルピー安(55.54/55)になっている。その主たる理由はいとも簡単で、経済活性化に向けた政策の導入がまたしても「言うだけ」で終わるとの疑念が強くなっているためである。
財政健全化のための公営企業株の売却も、今年度はまだ1件も実現できていない。財政赤字を5.1%まで改善すると公言した財務省は既に白旗をあげ5.3%まで目標値を落としている。経済成長率も02年(4%)以来となる低成長率(5.5-6.0%)が予想される。その間、高止まりするインフレ率のためインド中央銀行(RBI)は金利引き下げに踏み切れず、結果として耐久消費財などの買い控えが影響して9月の鉱工業生産指数は前年度比で0.4%の落ち込み(マイナス成長)である。こうした趨勢を見据えて、スタンダード&プアーズ(S&P)などはインドの格付けが3割の確率で2年以内に「ジャンク(投機的レベル)」になるとの見通しを出した。
その一方で、BRICsの名付け親であるゴールドマン・サックス会長のジム・オニール氏はこの10年でインドが中国の経済成長率を追い越すとまで述べている(The Economic Times 11月24日付)。インドにとって8%くらいの成長はさほど難しくはなく、2桁成長も可能だと。ただし、同氏特有の皮肉で、巨大な人口を擁する極めて複雑な国インドでは、言ったことを実行に移すのがどれほど困難かが分かるので、そういった私の判断も1週間も経つと変わってしまう(インドは実行力の伴わないダメ経済だと思ってしまう)と付け加えている。言い換えれば、十分な素質に恵まれながらもろくに稽古もせず、十両あたりで廃業してしまう相撲取りのようなものだ。
最近はやっている言葉に「Gゼロ(グループ・ゼロ)」がある。もはや米国は世界のリーダーたりえず、リーダー役不在の「Gゼロ」状態が今の世界。その中で適応力がありリスクや攻撃に対する防御が備わっていれば勝者となり、新しい現実と変化の必要性に対する認識を拒めば敗者となる。まさに今のままのインドでは後者(敗者)になりかねない。マンモハン・シン首相が打ち出した「老練と若さが融合した新内閣」が、新しい現実と変化の必要性を受け入れる度量を持ち合わせていてくれればいいのだが。
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