新時代への離陸─A(Awareness) からA(Action)へ
財政(経常収支)赤字はGDPの5.4%と過去最悪の状態で、貿易赤字幅も拡大、インフレ率と金利は高止まり、国内総生産(GDP)も前年度比で5%台の低成長率が見込まれている。BRICsの一角を占め、中国に次ぐ経済大国としてもてはやされたインドの勢いは失われたかに見える。
この点をマルチ・スズキのバルガバ会長に直接尋ねると、「我々インド人は、とことん追い詰められるまでは行動に出ない性癖がある」との回答だった。納得の一言である。1991年デフォルト(債務不履行)寸前まで追い込まれると、保有する金(Gold)を担保に海外から借金し、社会主義的混合経済を自由主義経済へと大転換させ苦境を乗り切った。それから後は押しなべて順調な経済活動が続くと、手を緩めずに推し進めるべき経済改革にも遅れが生じてきた。それにリーマンショックや欧州危機などが重なり、今また苦境に立たされている。すると、どうだろう、ポピュリスト的政治で食いつないできた与党国民会議派が昨秋あたりからやる気を見せ、一般的には不人気政策とみられた財政赤字の根源である(補助金による統制された)ディーゼル価格の引き上げに始まる、一連の経済改革に踏み込んだ。それを機にいろいろな経済指標が反転してきている。まさにやってみないとわからないものだ。
これを単純にインド経済の復調と見るわけにはいかないが、時代の潮流の変化を読み取ることは出来る。それは昨年12月に行われたグジャラート州議会選挙でも感じられた。モディ州首相の3選が争われたが、同州における2002年のイスラム教徒虐殺におけるモディ州首相責任論(事件への関与が取りざたされ、一部で問題視された)は選挙結果を左右しなかった。モディ州首相も、「過去に自分が間違いを犯したということなら謝罪する」と発言、こわもてイメージの払拭に努めている。要は、「過去から学ぶことは必要だが、過去の延長線上(過去を踏襲すること)に未来はない」ということか。
終戦直後の廃墟と化した東京を訪れ、“The past is past(過去は過去)”との名言を吐いたのはインドの初代首相、ネルーだった。その心は、「過ぎ去ったことにくよくよせず、国の復興に努めてください」というものだった。マンモハン・シン首相は昨年末、「行動を起こすことの重要性」を強調した。インドの旧態依然とした悪弊は誰しも認識しているところだが、それを敢えて正そうと行動しない。モディ州首相の3選やシン首相の発言が、そこに楔を打ち込む意志の表れだとすれば、インドの2013年は期待できる年になるはずだし、是非そうなって欲しい。そして、読者の皆様にとっても、2013年が素晴らしい年になりますよう、心より祈念申し上げます。
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