2014.02.23

インド国民、積年の課題への回答

1960年代前半、私が高校生のころ、イギリス政界を揺るがしたスキャンダル「プロヒューモ事件」が起こった。当時イギリス陸軍相だったジョン・プロヒューモは保守党の重鎮で英国紳士、既婚者であったが、パーティーで知り合った自分の娘のような歳の踊り子(当時19歳)と性的関係を持ち、それが暴露された。その踊り子は駐英ソ連大使館付海軍武官のイワノフ大佐とも関係があったとされ、軍事機密漏洩の噂が出るに至りプロヒューモは辞任、世紀のスキャンダルにイギリス議会は混乱に陥った。結局、マクミラン首相は1963年10月に辞職、翌1964年の総選挙で保守党は労働党に敗北を喫した。

冒頭から下半身の話で恐縮だが、この事件の示唆するところは、現在のインドに通じるような気がする。即ち、密室で行われ、特定の関係者以外は知る由も無く諦めていた情報へのアクセス権(公開)の主張である。言い換えれば、世間をおもんぱかり、胸のうちに秘めていた疑問や不満を、誰もが公言するようになることだ。まさに、庶民党(AAP)の党首ケジリワルがその導入でマグサイサイ賞を受賞したインドの「情報自由法(Freedom of Information Act:国民の知る権利を保障し、全ての国家機密は行政情報の適切な保管と提供の義務を負う)と軌を一にする。

2月22~23日に豪シドニーで開催の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に先立ち国際通貨基金(IMF)がインドに発した警告が「経済成長促進のためには供給のボトルネックを明確にし、構造改革をすべき」であった。米麦など穀物類の今年度生産高が史上最高と報じられる中で、インドの調査機関の最新レポートでは、インドで1年間に廃棄される果物・野菜・穀物類の損失額は4,400億ルピー(約8,000億円)となっている。主たる原因は物流インフラの未整備や欠陥。そのため食品価格の高騰を招き、耐久消費財等の前年度比インフレ率が1~2%だというのに、全体では2桁に近い。インド中央銀行(RBI)は金利の引き上げを行い、さらに景気を冷やしている。高騰する食品価格対策として政府は2兆円にも上る食糧補助金をばらまき、財政赤字の傷口を広げている。その財政赤字が公約であるGDP比4.8%を上回りそうになると、燃料補助金(約6,000億円)の支払いを次年度に繰り越し急場を糊塗している。その間の説明責任は全うされていない。

インドは1947年の独立に際して導入した社会主義的混合経済という錦の御旗で覆われたその陰で、政官財共に汚職はやりたい放題の状態できている。まさに表に出ないスキャンダルだらけだ。最近国辱が公然と世界中に放映された。国際オリンピック委員会(IOC)が、汚職に関与したと思われる人物をインド五輪委が役員に選出したことを理由に「倫理規定違反」とし、インド五輪委資格停止を行ったため、ソチ冬季五輪でインド代表団は国旗を掲げることが出来ず、五輪旗の下独立資格で入場行進をした。アパルトヘイト(人種隔離)政策時代の南アフリカ以来の不名誉な歴史を刻んだ。

どこかでこの流れを止める必要がある。具体的には、独立後の国民会議派一党独裁時に染み付いてしまった汚職体質を一掃し、インド社会の構造改革を断行することだ。庶民党が主張している「汚職体質改善」がそれであり、その国民審判が5月までに予定されている総選挙だ。旧態依然とした事なかれ主義に流されるのか、痛みを伴う改革に打って出るのか。いま、問われているのは個々の政治家の資質より、そうした政治家を選別するインド有権者の資質にありそうだ。

デリーが牙をむいてる? ほっぺに米粒がついている?
いえ、たまたま歯がへんてこに出たとこをパチリとやられただけです。

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