「変革と成長」―モディに与えられた60カ月
今回のインド総選挙では投票が開始される直前、ある若いIT技術者がツイッターに「間抜けな政治家(ラフル・ガンディー)より、殺人者(注1)であっても彼(モディ)を選ぶ」と書き込んだ。インド国民が今望んでいるものをこれほど明確に表現したものはない。汚職と腐敗にまみれたインドの政治体制を変革し、成長をもたらしてくれる指導者はモディ以外にはいないということだ。この二つ(変革と成長)が今後のモディの政治活動を読み解く上でのキーワードになる。
モディは選挙戦中に「60カ月くれ(注2)、変えてみせる」「国民会議派は60年やったが、インドを変えることが出来なかった」と熱弁をふるった。10数年間の施政でグジャラート州をインドきっての産業発展モデル州にした手腕を以ってすれば国政を治めることも可能との過剰なくらいの思い込みだ。
ワールド・エコノミック・フォーラムによるインフラ整備度ランクでインドは世界148カ国中85位で、米ヘリテージ財団が発表した2014年の世界経済自由度指数でインドは世界第120位だ。これではいくら潜在的経済発展能力があろうが、高度成長の持続は望めない。モディがグジャラート州首相として精力を注いだのはインフラ整備と諸制度の簡潔化だ。道路建設に加え、発電所建設にも注力し、インド唯一の電化州とした。運河建設による水運と水資源の確保も行った。その結果、グジャラート州の2005年-06年から2012年-13年の年平均工業成長率は10.6%と全国平均(7.5%)を大きく上回った。また非効率な農業の近代化も図った。農産物市場委員会法を修正、農家が仲介業者を通さず直接小売や輸出業者などに販売できるようにし、流通効率を上げた。その結果、州内農業年間平均成長率(2000/01-08/09)は7.7%と、全国平均(同2.6%)を大幅に上回った。既得権益の巣窟で政治家や官僚などが避けて通る公営企業改革も断行した。代表例が州電力庁(GSEB)の大改革だ。まず政治家をお飾り的なトップに据えることをやめ、有能な官僚を抜擢し権限を大幅に与えた。その上で、関連法規を改正、GSEBを持ち株会社にし、発電、送電、配電の各事業会社へと分割した。また、一般家庭と割安の電気料金が割り当てられている農家への給電路も分離した。さらに盗電、漏電(注3)を防ぐための特別警察署を5カ所設置した。上記の施策により、効率的な電力供給が可能になり、盗電や電気料金の不払いもなくなったと言われている。これら総合的な対策の実施により、モディ政権下のグジャラート州は州内総生産(GSDP)(2000/01-2011/12)が全国平均(同7.4%)を上回り8.9%と、トップを占めた。モディが目指すのは、グジャラートモデルの全国展開だ。彼に与えられた期間は5年(60カ月)。有言実行できれば「新生インド」が誕生する。
(注1)モディは2002年グジャラート州でムスリム(イスラム教徒)とヒンドゥー教徒の騒乱が起き、千人以上の死者を出したときの州首相で、積極的に鎮圧介入しなかったとの責任を問われた。最高裁では無罪判決。
(注2)インドの国会議員の任期は5年(60カ月)。過半数を占める単独政権であれば解散もなく5年の任期を使えるという意味。
(注3)一般的に、インドでは発電量の30-40%が盗電、漏電で最終消費者に届かないとされる。そのため慢性的な電力不足と補助金給付(低電力料金に抑えた電力の提供)による財政赤字の拡大を招いている。
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