より「カエサル」的なのは?
イタリアの高校の歴史教科書には、「指導者に求められる資質は次の5つである。知力。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。ユリウス・カエサルだけが、このすべてを持っていた」とあるらしい。
塩野七生さんがこれをもとに、読者に息抜き用の「遊びのすすめ」を薦めている。インドに当てはめると、来年5月に予定されている総選挙で一騎打ちと目される国民会議派副総裁のラフル・ガンディーとインド人民党(BJP)から首相候補として指名されたグジャラート州首相のナレンダラ・モディの比較が面白そうだ。
まず、知力と説得力の比較をしてみたい。ラフルは自陣営に属していると思われる人たちに対して、病を押して政務に励む母親(ソニア・ガンディー国民会議派総裁)をたたえ、暗殺され非業の最期を遂げた祖母(インディラ)や父(ラジブ)同様自分も暗殺されるかも知れないがそれでも構わないと、お涙ちょうだい的な演説を繰り返している。そこには知力も説得力もまったく感じられない。
一方のモディは、横行する贈収賄や政治スキャンダルの浄化、失速する経済の回復など国家の大事を訴え、表向きにはイデオロギーや宗教を超えたところで大衆に呼びかけている。カエサルはルビコン川を渡るとき、兵士たちに向かって「オレを男にしてくれ」と訴え、彼らのやる気を喚起した。モディもこれに倣ったのか「自分を首相として選ぶのではなく、チョキダール(門番、守衛)にしてくれ。皆さんのお金と生活は守る」と訴えている。
次に肉体に関する比較だが、ラフル43歳、モディ64歳、20歳もの違いがある。両者の演説や報道されている日常生活からは特段の差は見られないが、インドの知人たちによると、それは瞬間風速的観察であり、一国の首相の激務に耐えるにはそれなりの政治肉体の実地訓練が必要だと言う。3期目の州首相を務めるモディにはそういった政治肉体が備わっているが、これまで政治要職で鍛錬されていないラフルはひ弱に見え、果たしてタフな要職に必要な政治肉体に備わる耐久力を持っているかは疑問だとしている。
最期に、自己制御の能力と持続する意志だが、ラフルの演説は興が乗ってくると、絶叫風の金切り声になり耳障りだ。演説時の発生トーンすら制御できていないと見る。一方のモディの演説は、まず聴衆を煽り、巧妙にその下からさらに火を付け煽りまくる。政敵の誹謗中傷には、それでインド社会が良くなるのかと反撃、相手の挑発には乗らず、将来展望を引き合いに出し、自分の弱みである過去の政治的汚点(注)を消すしたたかさを持っている。
2002年問題の精神的呵責をトラウマとし、それを乗り越えようとする持続的政治意志、政界浄化と経済発展への姿勢がモディには見受けられる。一方、ラフルの政治的意志は、弱者救済だ。しかし具体的手法は見られず、旧態依然としたバラマキ政策が目につく。
お前はBJPの回し者かと言われそうだが、思った通りを書いてみたまで(息抜ですから、あまり硬く考えないでください)。
(注)2002年のグジャラート州宗教抗争で、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒双方合わせて2千人以上の死者が出たとされた時の州首相だった。
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