プロミセス、プロミセス─空手形乱発の行く手は
11月中旬のインド出張で偶然にも面白いTV番組をみた。「インドは今後どう変わるか、変われるか」といったことを議論するもので、出演者はインドを代表する財閥、リライアンス兄弟の兄ムケシュ・アンバニや2012年にラタン・タタがタタ・グループの会長職を辞してからはインド財界を代表する「顔」と言われるマヒンドラグループの若き御曹司アナンド・マヒンドラなど5名だった。インド出身でペプシコ最高経営責任者(CEO)であるインドラ・ヌーイ氏のスタジオ・インタビューもあったが、この番組では2つの発言が印象に残った。アナンド・マヒンドラは、「インドを変えられるのは旧態依然とした汚職まみれの政治家ではなく、将来を担う若者だ」と主張。「彼らこそが新しいインドを創り出す」と言明していた。
一方のヌーイ氏は、「多くの優秀なインド出身の人(リーダー)が世界で活躍していが、インド政府は何故かれらが祖国に帰ろうとしないのかをよく考えてみる必要がある」と説く。言い換えれば、全うな政治を行い、祖国に帰りたくなるようなインド社会を創り出すことが必要ということ。私なりに2人の言いたいことを要約すれば、「インドの未来を信じて疑わないが、そのためには前途有為な若者が主体性を持ち、政治改革に立ち向かう必要がある」となる。
インドで実感するのは、良識ある誰もが「政治家の虚弁には辟易している」こと。その典型は国民会議派No.2のラフル・ガンディーが11月6日、ジャンム・カシミール州で行った村会向け演説会だ。ラフルの演説が始まって5分も経たぬうちに村会のリーダーが「また、約束事を繰り返すだけか。この3年間何も実現していない」と政府批判をぶちまけた。その際、政府を“Hollow promises”と表現、やり場のない虚しさを吐露している。
表題の「プロミセス、プロミセス」はビリー・ワイルダー監督のロマンチック・コメディ映画「アパートの鍵貸します」に出てくるバート・バカラック作曲の挿入曲だ。その一節に「そんな約束事じゃ、人生台無しだ(Oh, promises, their kind of promises can just destroy a life)」というのがある。来年5月までに予定されているインド総選挙で有権者が自分の人生を台無しにしてしまう空手形乱発の政治家(屋?)に1票を投じるのか、それとも政権交代を是とし、有言実行を求めていくのか。私自身は「変えなくてはどうしようもない」ところまできている、という風向きの強さを感じて帰国した。
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