「起こり得ないこと?」への恐怖と期待
昨年12月8日に開票されたインド5州の州議会選挙のうち、デリー準州の結果が驚きをもって迎えられた。70議席のうち43議席を誇った国民会議派が8議席と惨敗し、結党後1年足らずの新党アーム・アードミ党(Aam Aadmi Party=AAP:庶民党)が28議席を獲得、32議席を獲得したインド人民党(BJP:前回23議席)に次ぐ第2党となった。国民会議派の支援を受けたAAP党首のアービンド・ケジリワルがデリー準州の首相に就任した。彼には首相候補として次期総選挙に出馬すべしとの声も上がっている。
国民会議派にとっては悪夢のような現象だろう。この結果が今年4-5月に予定されている総選挙に影響を及ぼしたら、同党は壊滅的打撃を受けること必死だ。事ここに至っても事実を事実として認め、それがインド国民の求めていた結果であることを認めたがらない人たちがいる。その最たる人物が農業大臣であり国民会議派の長老でもあるシャラッド・パワールだ。彼は「AAPの成功は単なる偶然の出来事だったことが判明しよう」と強弁している。衰退していくものが口にするような発言だ。
日系三世で著名な米政治学者のフランシス・フクヤマは著書「政治秩序の起源(Origins of Political Order)で「現代の政治秩序を構成する3つの要素」の一つに「全国民に対する政府の説明責任」を挙げている。あまりにも当然のことなので、今更と思うかもしれないが、それをないがしろにしてきたのがインド政治だ。言い換えれば、国民を愚弄する政治。そこに一撃を加えたのがAAPといえる。彼らの主張は「反汚職」による政治の透明性だ。よりよき明日を求め選んだ政治家による国富の食いつぶしに業を煮やした一般市民の反乱だ。
イギリスで最も評価の高い歴史学者の1人で、BBCが2012年、「最高の知性」として選んだニーアル・ファーガソン(NIALL FERGUSON)ハーバード大学歴史学教授が表現している「大いなる再収斂(『劣化国家』東洋経済新報社、2013年10月)」がインドにも当てはまる。インドが抱える問題の本質は、インドを発展させてきたかもしれない制度そのものの衰退だ。退廃的となってしまった社会制度をいかに作り変えていくか。
再収斂できるのは誰か、などというばかげた議論に時間を費やせるほどインドに余裕はない。再収斂への具体的道筋を明らかにし、身を賭してやって見せるという実行力とビジョンを掲げる人物こそ次期首相にふさわしい。そうした人物の登場をインド国民は渇望している。もしかしてケジリワルが、という見方もある。既存政党にとっての恐怖が、インド国民にとっての期待に取って代わるのか。2014年はインド政治を画する年になる予感がする。
読者の皆様にとって2014年が、少なくとも昨年よりはよい年になりますよう祈念申し上げます。
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