多極性人間の選挙戦術-ヒンドゥー至上主義とビジネスの顔
モディ・インド人民党(BJP)首相候補は2年前、米週刊誌TIME(南アジア版2012.3.16付)の表紙を飾った。そのときのキャッチフレーズが「MODI MEANS BUSINESS(ビジネスの具現者モディ)」だ。モディは大学に行かず、17歳で家を出てBJPの支持母体でもあるヒンドゥー至上主義組織「民族奉仕団(RSS)」に加わった。彼ほど多極的な側面を持つ人間はいない。ヒンドゥー至上主義者でありながら、事ビジネスに関しては無宗教派と化す。モディが州首相を務めるグジャラート州最大の都市アーメダバードから車で20分程北に位置する州都ガンディナガールまで舗装された直線の高速道路が延びる。モディにしてみれば、高速道路は真直ぐでないといけない。その道路建設に当たり、道をふさぐ小規模ヒンドゥー寺院を100以上も撤去させたらしい。ヒンドゥー至上主義者にとって命がけの行為でもあるが、理を通すことでそのヒンドゥー至上主義さえ押さ込む。そんな離れ業が出来るのも、彼くらいだろう。その手際を見ていると、まるで囲碁の布石を見ているようだ。今回の総選挙に際しての候補者と候補地選びにもそれが見事に反映されている。
まずモディ本人だが、本来なら地盤とするグジャラート州の選挙区から立候補するのが当然だが、なんとまったく所縁の無い北部ウッタル・プラデッシュ(UP)州のバラナシ選挙区に決めた。同選挙区選出でBJP総裁も務めた党長老M.M.ジョシの抵抗も一蹴、彼には同州の主要都市であるカンプール選挙区をあてがった。現BJP総裁のラジナート・シンには同州都であるラクナウ選挙区から出馬させる。ヒンドゥー至上主義の対極に位置するシーク教徒の聖地、パンジャブ州アムリッツァ選挙区には、モディの右腕で党戦略立案者、現野党上院議員団長(BJP政権時の法相)である弁護士、アルン・ジェイトリーを据えた。下院改選議席数543の15%近く(80議席)を占めるUP州を押さえ、その勢いでシーク教徒も取り込もうという戦略だ。居住移動性の高いインドだから実行できる戦略だが、勝つためには非情な手段も躊躇なく取る。政治もビジネスと考え、割り切る。
その一方、首相候補に指名されてから初のバラナシ訪問となった昨年12月、モディは演説で「I came from the land of Somnath to take the blessings of Baba Vishwanath(ヴィシュワナートの祝福を受けに、ソムナートの地からやって来た)」と民衆に訴えている。グジャラート州にあるソムナート寺院は「永遠の寺院」と呼ばれ、バラナシにあるヴィシュワナート寺院はヒンドゥー教の総本山のようなもので、いずれもインド3大神の1つ、破壊の神シバ神を祭っている。演説前にヴィシュワナート寺院に参拝するという配慮も欠かしていない。その上で、演説では汚染にまみれたガンジス川の浄化を訴え、「それは宗教上の義務であると共に、政治的コミットメントだ」と言ってのける。硬軟併せ持ち、政治とビジネスを融合させる凄腕を絵に描いたような立ち回りようだ。今の国民会議派には逆立ちしても真似できるほどの飛び抜けた人材はいない。勝負は火を見るより明らかなようだが、破壊した後の神様(創造神、ブラフマ)をいかにして招きよせるのか、まだその先が読めない。
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