繰り返されるチダンバラムの夢?―正直な人が正直になれない社会
ムカジー財務相(当時)の大統領選出馬に伴ってマンモハン・シン首相が兼任していた財務相にチダンバラム内務相が横滑りして2週間経った。そこで打ち出されたのが「うそのない、信頼に足る財政再建策(fresh plan on fiscal consolidation with ‘honesty’ and ‘ credibility’)」だ。果たして3度目の正直となるのか、2014年の総選挙の趨勢をも決め兼ねない大仕事だ。
チダンバラムの財務相は今度で3回目になる。経済自由化が一定の成果を現した1997年、蔵相として“Dream Budget(夢の予算)”を発表した。その際には、「不正直な人に正直になってくれとまでは言わない。正直な人が正直でいられる社会を創る」と見得を切った。しかし今もって、私見だが、正直な人も(相当)不正直をやっているように思える。
2回目の蔵相として2005年、今度は“Balanced Budget(均衡予算)”を打ち出し、経済成長と貧困撲滅を目標にインド国家財政の再建に取り組んだ。その結果、財政赤字と社会格差が拡大し、世界的格付け会社(FitchやS&P)からは格付け引き下げ(最下位の投資適格から投資不適格へ)の警告まで出ている。
事ここに至っては、従来の延長線上のかっこいいリップサービスでは埒が明かない。果たして今回、チダンバラム財務相は従来同様「夢」を語りインドを投資不適格国にしてしまうのか。それとも、自国の恥部(財政政策の失敗)を明確にし、その是正のための赤裸々な政策を打ち出せるのか見ものだ。
政策の失敗の根本要因は、独立に際して取り入れ1991年の経済危機を招いた社会主義制度の抜本的な改革をしないまま、その矛盾に自由主義経済の手法で臨もうとしていることではないか。まさに「木に竹を接ぐ」がごとしだ。経済自由化の際に社会主義的混合経済の失敗を認めたわけだから、その制度の徹底的解体と再構築が必要だ。国営企業の民営化に始まり、補助金などのバラマキ政策をやるのではなく、その金でもってやるべき政策(インフラの整備や主要物品の統制価格の廃止など)を推進すべきだ。
近頃は「眠れる巨像目覚める」などといわれ、内需主導型のインド経済に関心が深まってきてはいるが、本当のところは目覚め際が悪くむずかっている子供のような段階ではないか。そろそろすっきりした覚醒にいたって欲しいものだ。
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