マルチ・スズキ暴動の教訓
痛ましいと言わざるを得ない暴動だった。人の命まで奪う労働争議というのは異常だ。何故そんなことになったのか、明快に答えてくれる人はいない。そもそもいろいろな要素が複雑に絡み合って生まれてくるこの種暴動の要因が何であったのか、明解を求めること自体に無理がある。
アメリカの整形外科医R.B Osgood(1873-1956)の名を冠したオスグッド病というのがある。いわゆる成長痛である。発育期特有の障害として、骨の成長に筋肉の成長が伴わずに起こる症状だ。インド社会もこのオスグッド病を発症していると考えると、おぼろげながらも物事の本質が見えてくるような気がする。
インドは1947年の独立後、社会主義的混合経済体制の下、結果としてガラパゴス化した経済メカニズムを取り入れて失敗する。デフォルト(債務不履行)回避のため91年に経済自由化すると、それまでの遅れの取り返しに弾みがつき、9%前後の経済成長を数年続け、躍進するBRICsの一員として脚光を浴びた。
しかし骨の発育(経済成長)を支える必要な筋肉の発達(社会インフラの充実や富の公平配分)が伴わず、今その筋肉が悲鳴を上げているのだ。したがって、インドに進出した日本企業は、自社に筋肉痛(労使対立や従業員間での不平不満の蓄積など)が起こっていないか、あらゆる角度からの踏み込んだ検診(調査)が必要になる。その際厳に避けるべきは、「私は雇う側、あなたは雇われる身」的な姿勢での対話だろう。ワーカーを経営者側に立たせ、自身(経営幹部)はワーカーの立場になってみる。立ち位置を相互に変え、その繰り返しをやっていく中で、どの程度のバランスが保てるかだ。
バブルや米住宅バブルの崩壊によりもたらされる金融危機を予言したイエール大学のロバート・シラー教授は、そういった危機の予告の説明に議会の公聴会にも呼ばれ、規制当局や政府関係者とも議論をしていたらしい。しかし、「彼らは耳を傾けたが、アクションは起こさなかった」ということだ。
やはり心してかからなければならないことは、労使双方の議論に基づきやるべきことの指針ができたら、必ずそれを行動に移すことだ。かつて米GEのジャック・ウエルチ会長(当時)は日本の経営者に対し「いま、我々が直面している(日米逆転という)現実は、やがて日本が経験することだ」と予言した(8/8付日経)。「マルチ・スズキの暴動は、やがてあなたの会社が経験すること」にならぬ保証はどこにもない。
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