「やらずんば死を(Do or die)」-インド人のDNA-
「そんなことだとはつゆ知らず、大変失礼しました」といったところだろうか。一般大衆からは「Mr. No decision(決めない首相)」と揶揄され、ワシントン・ポスト紙には9月6日、「沈黙する悲劇の首相(India’s silent PM had become a tragic figure.)」とまでごく評されたマンモハン・シン首相が14日、それまでの批判にのしを付けて返すがごとき快挙に出た。マルチブランドを含めた小売業や航空業界の自由化をはじめ、公営企業株式の売却促進まで、予想外ともいえる決定を下したのだ。
よく考えれば伏線はあった。ワシントン・ポスト紙の記事の出た翌7日、シン首相は「経済を上向かせるため、全大臣に対し懸案事項の早期解決に向けてアクセルを踏み込め」と指示を出した。私はまあまた「実行の伴わない、言うだけの指示」だという印象を受けた。どっこいそこには大御所の保証が取り付けられていたのだ。8月末、与党国民会議派総裁ソニア・ガンディーは自党の重鎮を集め、「防御のままでは埒が明かない。攻撃に転じましょう」との檄を飛ばしたらしい。すなわち、「息子(ラフル・ガンデイー-)を首相に、そのためには人気取り政策(防御)が一番」のような振る舞いを見せていたが、事ここに至り、攻撃に転じる承認をシン首相に与えたらしい。
重鎮を集めた御前会議でシン首相は、「強い経済こそ望まれる政治だ(Good economy is good politics)」と繰り返したらしい。その発言をソニアが支持(責任を持つ)と言えば、それに反旗を翻せる党員はいない。全員右にならへ、だ。
歴史を顧みれば、切羽詰るとインド(インド人)は動く、というDNAが鮮明になる。1991年の経済危機のときも、デフォルト(債務不履行)寸前で経済自由化に舵を切り、一命を取りとめた。98年の核実験で主要国から経済制裁を受けると、非居住インド人(NRI)に対し資金の出所を問わず、NRI間での転売を認める金証券を発行、50億ドルもの外貨を調達し資金不足をまかなった。
今度は、リーマンショックやヨーロッパの財政危機などによる自国経済の疲弊が限界に来、政治的にも行き詰ったので思い切ったことをやった。どうもインド(人)というのは、尻に火が付くまでは「No Problem」で過ごし、徳俵に足がかかったときにやっと、自分には後がないと気が付くのだろう。
もしかしたらビジネスでも同じことが言えるかもしれない。上手にインド人を追い込むこと。百メートル先の赤信号を10メートル手前まで来ているように思わせる。そういう気持ちでインドビジネスをやってみたら、案外うまくいくかもしれない。結果についてはご自身で責任をお取りください。
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