「消費者は王様だ」―出ガラパゴス島記
インド最高裁は5月1日、複数ブランドを扱う総合小売業の外資への開放政策が「政策導入の法的根拠もなく、国会審議も経ていないので無効である」とした訴えを退けた。判決文が何と粋なことか。「消費者は王様であり、その考えを政策に織り込んでどこに問題があろうか。その上、コストアップにつながりインド経済のネックとなっている不労所得に群がる中間業者が排除できるのなら、消費者への恩典だ」とし、外国為替運営法(FEMA2000)にも則っていると断じた。
インド政府は2011年11月、複数ブランド総合小売業に、外資の出資を最大51%まで認める閣議決定をした。これに対し野党は、キラナと呼ばれる零細小売業者が立ち行かなくなると反発、国会決議を求めた。本来、国内法では必要ないものだが、混乱を避けるため与党国民会議派は国会審議に応じた。その結果2012年12月、複数ブランド総合小売業への外国直接投資(FDI)解禁に関する政府決定の撤回を求める動議の採決が行われたが、否決された。今回、最高裁でもシロ判決が出たわけで、巨大なインドの消費者市場が外資に開放されたことになる。
アジア第3位の経済大国と誇ってはいるが、インドは何重苦にもあえいでいる。流通インフラや保管施設が整っていないため農作物が大量に痛んで供給不足につながり、食品価格は高騰したままだ。そのため、製造業などのインフレ率が5%を下回っていても、総合インフレ率はいまだに6-7%の高止まりで、銀行貸出金利も10%前後とすこぶる高い。国内消費原油の約8割を輸入に頼るエネルギー事情に加え、価格統制のための補助金政策が経常勘定や財政の赤字幅を拡大している。規制あるが故に旨味を求めて寄生虫がのさばり、汚職と腐敗が後を絶たない。
今インドが放つべきは、日本の安倍政権が唱える成長戦略3本の矢の3本目だろう。すなわち徹底した制度改革だ。どんなに潜在能力があろうとも、それを活かせない制度の中では、今後どれだけ伸びられるか甚だ疑問だ。1947年独立時から敷かれてきた社会主義的な経済規制の多い制度を徹底的に洗い直し、新しい時代に即した制度に変える必要がある。
相当な痛みを伴う構造改革だろうが、先送りすればするほど改革の痛みは増す。今政治の第一線にいる80歳のシン首相を筆頭とする高齢(で一部役立たずも含む)国会議員は、生涯に一度くらいは、旧態依然とした制度を道連れに自爆してやる、くらいのリーダーシップを発揮すべきだ。
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