2013.06.02

中国的「戦略的パートナーシップ」論

手を振って記者団に応える中国の李克強首相とシン首相(5月20日、ニューデリー)

中国の李克強首相が5月、首相就任後初の外遊先としてインドを訪問した。考えた末の選択だったのではないかと思われる。中国軍部隊が4月、インドとの事実上の国境線であるカシミール地方の実効支配線(LAC)を越境、意図的にテントを張ったことで緊張が走った。LACはインドが中印紛争で負けた1962年に設置された停戦ラインであり、その合意を破った中国側の意図がよく分からなかった。結果として、中国側が部隊を撤収し両軍の衝突という事態は避けられたが、危険な状況を中国側が作ったことに変わりない。

その一方で、尖閣諸島問題で日本と事を構え、南沙諸島領有ではフィリピンとにらみ合う。どう考えても中国の無謀な戦略と思えて仕方ないが、国家戦略という視点からすればそれなりに意味はなす。中国の国土面積はほぼ米国と同じで世界第4位だが(注1)、その規模に似合わず自国の領海が少ない。したがって、資源やインド洋への海路確保には陸海併せた戦略が必要になる。あえて無謀で危険な冒険を犯す本当の狙いはどこにあるのか。「坂の上の雲」(司馬遼太郎著)にも登場する米軍事戦略家アルフレッド・セイヤー・マハンに言わせれば「海洋国家と大陸国家の両立は長続きしない」らしい。それを信じれば、まずは海上権と領海資源の確保が先ではないか。その上、いろいろな国と揉め事を起こせば、最期はヨーロッパ各国を敵に回したナポレオンの二の舞になる。

こう考えてくると、今回の事件もいろいろと勘繰れる。もともと中国にはインドと事を構える気持ちなどなかった。中印国境で形ばかりの事件を起こしておいて、中国新首相の訪印につなげ、二国間問題は当事者同士で話し合えるとの演出ではないか。訪印直前の15日には、インドの青年訪中団と会見、「アジアは世界経済の重要なけん引役になる。中印両国が手を取り合い、これを実現させよう」と語っている。殴っておいて、仲良くしようという類のものだ。

こう考えてくると、中国がいろいろな国と事を構えているのは、どの国とも本格的な衝突を避けたいからではないか。いわゆる「フレネミー」(注2)作戦が中国の志向する戦略的パートナーシップ論とも言えよう。であれば、そこを理解して付き合っていくのが政治的成熟国家だ。低成長にあえぎ、構造改革など経済問題山積のインドだが、国際政治的にはかなりの成熟度を見せている。

(注1)世界経済のネタ帳 http://ecodb.net/ranking/area.html
(注2)「経済面では両国は良好な関係を保たなければならない相互依存の状態にあるフレンド同士だが、イデオロギーや軍事面では敵対している」ことを表現した米ジャーナリズムの造語

「変なのがいる?」本人はネコと思っていませんので、ネコの木彫りとは分かりません。

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