いつか来た道?
インド経済が低迷し続け、4-6月期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比4.4%と10年ぶりの低成長を記録、政府が望む8%前後を大きく下回っている。また、米連邦準備制度理事会(FRB)の米国債買い入れ額縮小懸念からルピーが売られ、年初から20%も下落している。その結果、原油を代表格とする輸入物資の価格上昇につながり、経常収支赤字も対GDP比で4.8%と、これまた10年ぶりの高水準となった。外貨準備高も大幅に減少してきている。その一方で消費者物価指数(CPI)は2桁に近い高値で推移している。
この期に及んでも国民会議派率いるUPA政権は恥も外聞もなく、来年5月に予定されている総選挙を睨んだバラマキ政策を実施している。その代表格が国家食糧安全保障法だ。物価が上がり苦しむのは(大票田でもある無教育の)貧困層だとし、毎月5キロの穀物を、1キロ当たり1-3ルピーというただ同然の値段で支給するという。そのための補助金は年間2兆円を超える。こんな法案が国会を通るわけもなく、マンモハン・シン首相は正面突破を割け迂回ルートである大統領令に逃げ込み、ムカジー大統領が7月5日法案に署名、実行に移された。
いかに総選挙のためとはいえ、対処療法で急場をしのぎ、それを以って国民にアピールするという手法は旧態依然としたもので、何ら進歩が見られない。1991年経済(外貨)危機に見舞われたインドは、それまでの社会主義的混合経済体制から離脱、自由主義経済陣営に加わった。その後は、旧体制が抱える悪弊の除去をいかに早く行うかが喫緊の課題だったが、一度危機を乗り越えた後のそれなりの経済発展に浮かれた政治家たちは、つらく苦しい、しかしさらなる将来的発展には避けて通れない抜本的制度改革を片隅に追いやってしまった。
その間何をしてきたか。職を持たない人に魚の取り方を教えるのではなく、今日食べる魚を与え続けてきた。言い換えれば、多くの困難を伴う改革を後回しにして、リップサービスでその場しのぎをしてきたようなものだ。シン首相は2005年8月15日の独立記念日に“10年後には、この国から貧困と無教育がなくなっているでしょう”と明言した。そして今年の独立記念日には“私たちの(貧困と無教育撲滅への)道のりはまだ果てしなく長い”にすり変わっていた。これまたリップサービスでした、とでも言うのだろうか。
目先の選挙対策に引きずられている限り、インドは決して良くならない。91年に決死の覚悟による体制変革を行ったように、自由主義経済で成功を収めたければ、91年と今とは国を取り巻く諸条件が違うなどともっともらしい弁明などせず、確固たる意志を持って抜本的経済改革を推し進めるべきだ。
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