オープン・エコノミック・ソサエティー(開かれた経済社会)への誘い
あっという間の一年だった。2008年秋に起こったリーマンショック後の釣瓶(つるべ)落としのごとき世界経済の急降下は、それまで強気であった世界の名立たる経営者をして機能不全に陥れ、その回復に手間取っている。アダム・スミスの「見えざる手」は必ずしも全能ではなく、アジアで唯一経済学ノーベル賞を受賞している印アマルティア・セン教授が主張する「市場の見えざる手は、しばしば政府の見える手に依存する」ことが証明された。
その間、先進国と新興国経済のデカップリング(非連動)論は姿を消し、FTA(自由貿易協定)やTPP(環太平洋経済連携協定)に見られるごとく、こと経済に関しては両陣営(先進国、新興国)こぞっての国境なき商流が生み出されようとしている。そんな中、前原外務大臣は「経済外交の柱は国を開くことだ。国を開くことを本気で考えないと競争力は低下してしまう」(10年11月4日、日経)とまともな発言を行ったが、農業関係者からの反発(製造業のために農業を犠牲にするのか)を受け、立ち往生しているのが現状だろう。では百歩譲って、果たして、農業を救うために製造業を犠牲にして良いという議論が成り立つのか。両者の国内総生産(GDP)寄与度を考えれば有り得ない話で、どうも本筋が見えてこない議論になってしまっている。
保護すれば保護するほど、その産業は弱くなってしまうのではないか。開放しても食って行ける農業とはといった議論がなされないままで、税金が農業保護に使われて行く。魚の取り方を教えずに、魚を与えてしまうようなものだろう。食べてしまえばそれまでだ。日本には政策があっても、戦略がないと言われる所以だ。韓国の文芸評論家李御寧(イー・オリョン)はそんな日本人のDNAをうまく表現している。彼は1982年、ジャパン・アズ・ナンバーワンともてはやされた日本(人)を(盆栽などに代表される)『「縮み」志向の日本人』と評した。内へ内へと向かい、縮み込む日本人。現代の内向き思考の若者の出現も然にありなんと思ってしまう。しかし、その縮みを突き詰めて行くと、ためることにもつながるのではないか。グッと力を溜め込むのである。その凝縮された力は、以前にも増して強力な瞬発力を生み出すはずだ。
インドの平均年齢は25歳。二十歳から25歳までで日本の総人口に匹敵する。これら若者も含め、インドには貧困層(一日1ドル以下で暮らす人たち)が2億人いる。インドが抱える最大の課題、それは貧困撲滅である。それを成すには高度経済成長の継続が不可欠であり、そのための雇用創出、なかんずく製造業の基盤整備と拡大が必須だ。それに必要な技術やノウハウを日本は溜め込んでいる。今その凝縮された力を外に向かって発し(使かは)なければ、「閉塞感」に満ちた日本の変貌は遂げられず、その力は縮んだままで、萎えていこう。
否でも応でも、経済活動の国境は消滅しつつある。今こそ日本企業は蓄積した力を海外で思う存分生かすとともに、そこに住まう人たちとの共存共栄を図る(日本市場を開ける)気概が必要だろう。
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