知識と洞察力の違い
ギリシャ悲劇がユーロ悲劇に拡大、ヨーロッパ発の震源の余波が世界中に波及しようとしている。米オバマ大統領も“Change !”と叫び黒人で初の米国大統領になったが、期待した変化はもたらせず庶民は落胆、最近では“Change Obama !”とまで言われている。日本はといえば、東日本大震災からの復興もままならぬまま、責任のなすり合いが延々と続いている。費やされていくのは我々の血税である。その血(税)もまだ足らぬと、献血量(税)を上げろという議論が進む。もたもたしていたら出血多量で死に至りかねない。そうこうするうちに今度はタイで大洪水である。日本企業が開発した工業団地なども冠水、自動車や家電の部品供給に支障が生じ、日本国内での生産調整にまで追い込まれた企業も出ている。
錯綜とする社会状況に鑑み、それらを分析し、議論する講演会などが盛んに開催されている。結果をみて、「こうやっておけば」とか、「ああやっておけば」とかの議論を聞いても何かピンと来ない。1970年代に起こった昭和不況のときに著名なエコノミストであった下村治は、「転換期を説明するには過去のデータに基づくモデルではだめで、転換期をつかむことが出来る理論的な洞察力が必要」と説いている。
同じようなことを最近亡くなったアップル創業者のスティーブ・ジョブズが言っている。彼は20歳のころ7カ月間インドを旅行、そこでの体験から「インドの田舎の人たちの持つ、自分達の経験則から導かれた『洞察力』は素晴らしいものであり、自分達の使う知識などよりよっぽど強力で、私の仕事に大きな影響を与えた」と述べている。
妥協を許さず、どのような挫折に合おうが自分の信じる道を突き進んだ稀有な経営者は、先進国がもてはやす知識よりも、自分自身で手に入れた物事の本質を見抜き、将来を見据える洞察力に自分の人生を賭けた。知識をもてあそんでいるつもりが、知識にもてあそばれている凡人でも、知識を洞察力に置き換えるくらいの努力はしないといけないのではないか。
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