対立の世紀(US VS. THEM)と、グローバリズムの破綻(The Failure of Globalism) イアン・ブレマー著 (日経出版社 2018.06.13))
今年7月、私が高校時代通った埼玉県熊谷市で、観測史上最高となる41.1℃を記録した。大宮の近くにある我が家でも昨日、屋外に置いてある温度計が40℃を突破した。なんかおかしい。どこかの大統領は「地球温暖化はフェイクニュース」だとのたまったが、世界は確実に不確実な時代に突入している。地球温暖化はその現象の一端に過ぎない。今までの社会や経済常識が通用しない時代が到来している。従来の政治・経済・社会の延長線上には未来は描けないことが明らかになっている。経済学者のピーター・ドラッカーは「未来は予測できないが、未来は創れる」といったそうだ。ではどのような未来創造が可能なのか、そのためにはより確かな現状分析が必要になる。
そこで参考になるのがつい最近発刊の表題の本だ。地政学分析の第一人者と称せられる、イアン・ブレマーが現状と未来を読み解く、となっている。その中で合計人口が世界の半分以上を占め、この四半世紀(25年)で途方もない変化をもたらした12の新興国(注)が21世紀の世界経済の運命を握っているとし、その分析を行っている。ここでは、インドに関する彼の見解だけをご披露しておく。(注)南ア、ナイジェリア、エジプト、サウジアラビア、ブラジル、メキシコ、ベネズエラ、トルコ、ロシア、インドネシア、インド、中国
ざっくりまとめてしまえば、下記のような事象が取り上げられている。
「われわれ対彼ら」の政治において、宗教は焦点であり続けている。多様性の国インドにおいて、未だに宗教的動機による殺人が存在することは恐ろしい、の一言に尽きる。
モディ首相の下、非常に複雑な社会主義官僚制度の(部分的な)解体は、経済成長を促進する一方で、収入格差をさらに深刻にし、この本で取り上げられた12か国のうちで最も貧しい。すなわち、人口の半分の約6億人が極貧生活を送っている。
経済開放、サービス部門の拡大、そして消費者層の成長は、これまでのところごく一部の労働人口にしか恩恵をもたらしていない。所得上位1%の人の年収合計が現在、統計のある1922年以来で、国民総所得に対して占める割合が最も大きくなっている。
約2億人以上が電気のない、また、6億人ほどがトイレのない生活を送っている。
道路網の半数近くが未舗装で、社会的基本インフラ(道路、港湾、水道衛生設備、電力供給網等)の遅れを取り戻すには1.5兆ドル相当の投資が必要となる。
安全な水の確保もままならず、農地の2/3が灌漑を雨水に頼っている。食品インフレによる暴動の危険性もある。
毎月新たに加わる100万人を超える労働人口の吸収もままならず、自動化とAIによる就労機会の喪失も危険を呼ぶ。
カースト制度に基づく下位カーストへの優先権は逆差別として地方政治に緊張感をもたらし、暴動に発展する危険性をはらむ。
初代首相ネルー、娘のインディラ・ガンディ等、インドの主要な政治家たちは、植民地主義的な発想が「グローバリズム」の起源だとして懐疑的な見方をしてきた。
最後に、インドの新しい世代の政治家たちがさまざまな「われわれ」と様々な「彼ら」を闘わせることによって名を成すことになる深刻な危険性が存在している、と結んでいる。
誰もが現状をおかしいと考え、誰かが変えてくれるのを期待し、待っている。それに乗じて政界のトップに躍り出る。激動する現状が、思いもよらない人物に身を託さざるを得ない結果をもたらしている。
果たしてそういった人たちが我々の望む未来を創造してくれるのか、真に覚束無い。どのような未来が我々、そして我が孫子にとって好ましいのか、スマホに昂じるのもよいが、たまにはそういったビジョンを夢想する時間の持てる社会であって欲しい、と願うのは愚の骨頂だろうか。
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