2016.11.10

メイ英首相、ガス室へようこそ―デリーは最悪の大気汚染状態、そして人心も?

左:濃いスモッグで覆われたデリー市内(筆者撮影) 右:The Times of Indiaの一面。“Welcome to the gas chamber, Theresa May(ガス室へようこそ、メイ首相)”

左:濃いスモッグで覆われたデリー市内(筆者撮影)
右:The Times of Indiaの一面。“Welcome to the gas chamber, Theresa May(ガス室へようこそ、メイ首相)”

 今週前半インドにいたが、空気の悪さに驚かされた。11月上旬の午後5時過ぎのデリーはまだ明るい。しかし、空港を出たところで見通しの悪さに驚かされた。写真の通りである。当方の腕やスマホの出来が悪いわけではなく、まさに白煙の中を行くといった感じであった。

 11月7日月曜日の全国英字紙The Times of Indiaの一面はイギリスのメイ首相の来印を報じたが、そのタイトルは“Welcome to the gas chamber, Theresa May(ガス室へようこそ、メイ首相)”となっていた。ケジリワル・デリー準州首相は月曜日からの3日間を休校にするとの指示を出した。

 その日の昼頃、マルチ・スズキのバルガバ会長宅にお邪魔した際、環境問題も話題に上がった。その際の会長の説明では、空気汚染に関していつも悪者にされるのは車だ。しかし、PM2.5の排出量に占める車の排ガスは2%程度でしかなく、犯人は他にいるとのこと。例えば、インドでは麦や米、トウモロコシなどの刈り株を燃やすが、これが大きな原因であることは周知の事実だ。しかし、刈り株を燃やさないと次の耕作に入れないのも事実で、農村票を重んじる政治家には、そういった行為を規制する気持ちはない。

 その一方で、一番分かりやすく攻撃目標にしやすいのが車だ。そのため、ケジリワル準州首相は以前にも、乗用車のプレートナンバーの偶数、奇数別市内乗り入れ日規制を実施したが、不評に終わった。実際、そんな規制は余り効果がない、と言うのが現地住民の声だ。というのも、車を2台以上持っている家庭も多く、使い分けすれば結局総走行台数には余り変化がないし、そんな条例など無視して、見つかれば交通巡査に一寸鼻の下を嗅がせれば済むこと、程度にしかとらえていないからとのこと。

 モディ首相は賄賂や不正蓄財撲滅策(力での封じ込め)を講じているが、規制だけではなく、如何にして人心を改められるかにも腐心すべきであろう。デリー国際空港にはポーターがいるが、作業着の胸辺りに“No tip please(心付け無用)”と書いてある。当初は流石モディ首相、ポーターにも道義心を植え付けているのか、と感心したものだ。しかし、現実は改善されていない。帰国の際デリー国際空港のAI(Air India)のラウンジで見かけたことだが、偉そうなインド人が荷物を運んできてくれたポーターにしっかりチップを渡していたし、そのポーターも胸に書かれた“No tip please”などなきがごとく、当然のことのように受け取っていた。制度改革等は法令を改めれば出来ることだろうが、腐敗した人心を改めるのは気の遠くなるような大事業だろう。まさにモディ首相の言う「社会変革(Social Transformation)」の推進だが、前途の多難さには想像を絶するものが見て取れる。地道にやるしかないのだろうが、難儀なことだ。

 

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