ピケティの「21世紀の資本」とインド、そしてモディ首相の宿題
フランスの経済学者、トマ・ピケティが世界中を席巻している。賛否両論が行き交うが、これだけ世界の耳目を集めているのだからインドに関連付けて、一寸考えてもいいかと思った。
教授が言うように、インドでも冨の偏重が見られることは火を見るより明らかだ。
私がインドに駐在していた20数年前、ゴルフの打ちっぱなしの練習に行くと、インド人の親子が来ていた。
10歳前後と思われる子供はベネトンの半ズボンとこぎれいな半袖シャツ。父親もそれなりのブランド品に身を包んでいたと思う。お世辞にもうまいといえない子供の打ったボールはとんでもない方向に転がっていく。
それを取りに行くのが、同年代のぼろを身にまとった裸足の少年だ。
拾ってきたボールを子供の前にセットし、待機する。またとんでもない方角にボールが飛び、裸足の子が取り戻してくる。その繰り返しを見ているうちに、社会主義政策の上に立つ平等主義が、これだけの格差を生むのかと考え込んでしまった。
教授の言うように、富裕層の所得税率を上げ、資本税を導入すれば格差が縮小するかと問われれば、回答は「ノー」だ。インディラ・ガンディーが首相のとき、法人税は一時90%を超える高率だったらしい。その結果起こったのは格差是正ではなく、腐敗と汚職である。高率税を甘受するような人達は少ない。何とかしてごまかしてやろうと考えるのは至極有り得ることだ。その結果思うほどには税収が上がらず、社会保障制度は手付かずのままに貧富の格差は広がっていく。富める者はますます富む傾向になる。
ではどうするか。やはり社会システムの変革から始めることが必要なのではないか。
1997年、当時財務相だったチダンバラムは税金を払っている人が全国民の3%程度しかいないことを嘆き、「真面目な人が(脱税という不正をせずに)、真面目に生きられる社会を創りたい」と明言した。
富裕層に高率を課し不正を招くのではなく、税率を下げ納税に抵抗感がなくなるようにし、納税者の絶対数を増やす。そして納税制度の透明度を上げれば、結果として税収の総額が増えることになる。
また、納税者を増やすには、雇用、特に若年層への雇用機会を増やす必要がある。そのためには税率を下げ、企業が投資しやすくするとともに、可処分所得を増加させる。
教授の言っている「公務員の賃金引上げ」にはうなずけるところがある。建国に燃えたころは低賃金に甘んじていたかもしれない役人が、ある程度の経済成長が持続し、国がそれなりの体をなしてくると処遇に目が向く。その結果、不満を和らげるものとしての脱税やゆすりたかり、そして高級官僚などによる汚職が蔓延することになる。
やはりインドに求められるのは、税率軽減と納税制度の透明度を高め経済活動を活発にして雇用機会の創出につなげ、納税者を増やすことにある。昨年度の国家予算の暫定数値での歳入総額は16.8兆円。うち個人税収が2.78兆円。仮に納税者数が1%増えることによる単純税収増加額は9千億ルピー強(9.2千億ルピー)で、これはインドのGDP(128.7兆ルピー)の約0.71%になる。現在の対GDP比財政赤字が4.1%で、政府はこれを今後3年間で3%まで削減する計画だ。仮に上記のような税収が可能になるとしたら、財政赤字削減も容易だ。
インドの場合はどうもピケティさんが言っていることの反対をやったほうが格差是正につながるのかもしれない。ただし、誰でもが格差問題に目を向け、その解決に向けた努力を自分なりにしていくことが大事であることには変わりないが。果たしてインド人にそれが出来るか、モディ首相に課された大きな宿題でもある。
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