インド最高裁の見識
(2016年11月5日、ニューデリーのコンノート・プレイス=Photograph by Altaf Qadri, AP=)
インド環境問題の一つである大気汚染が異常なほど悪化している。昨年2月、米健康影響研究所(HEI)が公表した調査では、インドで2015年、大気汚染が原因で約110万人が死亡した。世界保健機構(WHO)の今年5月の発表では、大気汚染で年間700万人が死亡しているらしく、そのうちの約15%がインド人ということになる。また、同機構に依れば、PM2.5濃度で図った汚染度世界ワースト15都市のうち14がインドの都市というから、そのひどさに愕然とさせられる。特に汚染のひどいニューデリーでは、住民が「我々は毒ガス室に住んでいるようなもの」とまで言い切っている。
インド最高裁は今月24日、大気汚染の原因をなす排ガス規制強化のため、2020年4月1日以降、インド第6基準(BS-Ⅵ)を満たさない車種の販売を禁じる判決を下した。それに対し、中央政府と自動車業界団体からはBS-Ⅵ基準を満たさない在庫処分のため、6カ月間の規制導入猶予期間を願い出ていたが、インドの最高裁はこれを却下した。
業界団体の主張は、大気汚染には種々の原因があり、車の排ガスが占める割合は2%と微々たるもの、ということだったが、これに対し最高裁は、ちりも積もれば山となるで、大気汚染改善策ならその影響度に関係なく行っていくことがインド喫緊の課題と退けた。
最高裁判事はまた、インド共和国憲法21条が保証する生存権には、何人も良好な環境での生活権を有する、ということも含まれると指摘している。さらにその上で、次世代を担う若者も含めた国民の健康維持は、一部の企業や業界団体の金銭的利益の重要性をはるかに凌駕しているとし、経済成長を追い求める場合でも、国民の健康を犠牲にして良いわけではない、とも諭している。
一部には現実の社会を考慮していない判決、との反論もあるが、最高裁が現実に則った判断をしていたのでは社会が良くならないことくらいは常識人ならわかるはず。
国の経済発展は必要だが、その際でも、何が優先されるべきで、何を犠牲にしてはならないか、といった冷静な判断が求められよう。今回のインド最高裁の判決は、まとも過ぎる判決だが、だからこそその意義を明確に理解し、自分の社会生活の一端に取り込んでおくべきものだろう。
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