2008.01.15

我が信じる道を行くインド人―その3

混雑するオート・エキスポ開催会場周辺道路

インドの現地有力財閥であるタタの自動車部門、タタ・モーターズが想像を絶する10万ルピー(約30万円)の乗用車、「ナノ」を開発し、この10日、デリーで開催されているオート・エキスポでお披露目した。タタ財閥のラタン・タタ会長自らが運転して会場に乗り入れた車は、マルチ・スズキの軽乗用車(マルチ800)よりもこじんまりしたもので、「キュート」な感じのするものだった。

マルチ800ですら20万ルピーくらいはする。2003年、ラタン・タタ会長がその半値で乗用車をつくると発表したとき、誰もが懐疑的だった。何が懐疑的だったかというと、安全基準と環境問題である。そんなコストの安い車では到底、安全でかつ排ガス規制などをクリヤーできるはずはない、というのが誰しも持つ、一般的な認識だった。

しかし、低所得者層にも買える国民車(people’s car)をつくろう、と呼び掛けたラタン・タタ会長はあきらめなかった。彼は「ナノ」発表の席で、「約束は約束ですから(promise is promise)」と言った。外部から、このプロジェクトの挫折が何度聞こえてきたであろうか。それに耐え、あらゆる力を結集して自分の信じる事業を実現しようとするその生真面目さは、日本人がインド人には絶対ないと信じているもの、例えて言えば、「トヨタ流愚直さのインド人版」ではないか。インドの新聞に拠れば、「排気量623ccのエンジンが、インドと欧州の排ガス規制であるバラートIII、およびユーロ4を満たし、安全基準もできている」と論じている(The Economic Times, 2008.01.11)。本当だとすれば驚異だ。

ラタン・タタ会長は、「低価格国民車の次は、飲料水だ」と言う。貧困層には飲み水すらままならない国である。その難事業に挑戦しようというのだ。ビジネスと社会貢献を束ねた事業に飽くことを知らずにチャレンジするその精神や「アッパレ」である。

低価格国民車「ナノ」の実力は、現状ではなんとも言えないが、今年末の発売後、一般ドライバーが実際に路上で走らせてみて、その評価が決まるだろう。自動車産業に革命をもたらすかもしれないタタの10万ルピー車が、安全に船出できることを祈念したい。

ラタン・タタ会長と「ナノ」

「ナノ」を近くで見ようと群がる入場者

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