2013.03.03

巨大なる半覚醒国家の未来展望

2012年度版経済白書を発表したチダンバラム財務相(2月27日、ニューデリー)

「目覚めた巨象」。インドを語るときによく用いられる表現だ。しかし、自問するたびに私は思う。まだ目覚め切ってはいない「半覚醒」ではないかと。不安な点を挙げれば枚挙にいとまがない。拡大する財政赤字と貿易赤字。中間層以下の生活を直撃する穀物などの物価高、進まぬインフラ整備、そのために生じる非効率な生産活動。やるべきことが分かっているのに腰をあげようとしない社会と問題を先送りする官僚制度。さらには、そうした弊害をなくすどころか、それに乗じて守銭奴のごとく汚職にまみれる政治家たち。

こんな国に未来はあるのかと心配になるが、実は、あると言わざるを得ない。ただし、人口配当(Demographic Dividend 注)が享受できたとき、との条件付きだ。そうなれなければインドは人口悪夢(Demographic Nightmare 注)に陥る。2月27日に発表されたインドの経済白書(Economic Survey)は画期的だった。総論の次の第2章に、従来にない章として(Seizing the Demographic Dividend「人口配当を得るために」)が新設され、インドの明日を担う若者の雇用機会創出を強調している。そのため100億ルピー(約190億円)の予算を投じ、若年技術労働者を育成するという。これを起点に、現在の社会構造を逆転させたとき、インドの明るい未来が見えてくる。今後、技術者が続々と世に送り出されてくるとしたら、その技術者を受け入れる製造業を拡大させる必要がある。そのためには遅れているインフラ整備と煩雑な許認可制度の改善が必須だ。そして、それらを実現するためには官僚が意識を変革し、政治家も多少はまともになる必要がある。

人口の半分(6億人)を占める若者が、“where is our job ?(仕事がない)”という悲痛な叫びをあげることなく、未来に向かって歩み始めたとき、真に「巨象が目覚めた」と言えるのではないか。

ひるがえって考えてみるに、そこに、日本のお家芸である製造業の出番があると言える。日本企業がインドの今を正確に読み取り、日印両国の若者にあるべき姿と未来を掲げてあげられたらどんなにいいか、との思いを強くした。

(注)国民全体に占める生産労働人口が多く、その人たちの就労で国家に富が生み出されること。逆が、人口悪夢(Demographic Nightmare)。

いつも私の足元には、こんな感じでくつろぐ家族がいます。へんな足さばきで蹴飛ばしても、噛み付きませんが、「ギャ、いや、ニャかな」と言って、逃げ去ります。

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