2015.01.04

モディ、勝利の方程式

荒川の土手から撮った新年(1月2日)の富士山

荒川の土手から撮った新年(1月2日)の富士山

 今年中にはモディ首相の勝利の方程式が明確になるのではないか。運も実力のうちと言うが、とにかく強運の持ち主であることには違いない。最大の恩恵は原油価格の急落だろう。10年前1バレル40米ドル位していたものが一時は3倍以上にまで上昇、インドの年間原油輸入額(ドルの流出)も同様に急増、2013年では1,574億ドル(約16兆円)に達した。これはインドの国家予算の半分に相当する額だ。これが半減するだけで8兆円規模での貿易収支の良化につながり、ルピー相場を安定させる。原油価格が下がったことで、燃料価格維持のための補助金は不要になり、国家財政を助けると共に、車の販売等にも好影響を与え、雇用創出に連動する。運送費の軽減が当然物価低下をもたらし、中銀の金利引き下げも秒読みだ。この辺を反映して、昨年12月の製造業景況指数(PMI)も54.5と、2年ぶりの高水準となった。2014年のムンバイ平均株価(SENSEX)は年間で30%高となり、5年ぶりの大幅高で終った。 

 その一方で、地道な政治改革も実行している。とにかく今までの政治軌道を真逆にするのだから、並大抵のことではない。従来の国民会議派主導の政治軌道は、特定の利益集団が自分たちを利するために政治をやっていたようなものだ。大臣待遇だったモンテック・シン・アルワリア計画委員会副委員長(当時。委員長はマンモハン・シン首相)の「国家予算の3割は使途不明金」という公的発言が全てを語っている。その計画委員会も廃止の憂き目に会った。公正な政治システムは存在しなかった。言い換えれば、中央官庁などは腐敗と非効率の巣窟といえた。モディは腐敗をなくすための透明性や効率性向上を目指す。指認証システムで公務員の出退勤をチェックしたら、定時に出勤しているのが25%程度と、呆れてものが言えない程の体たらくだ。

 また、クリーンインディアを目指し、インドを代表するリライアンス財閥の御曹司の1人で富豪のアニル・アンバニをムンバイの道路掃除に担ぎ出した。そんな汚い仕事は最下層のすることと見做すインドでは非常識極まりないことだ。そこまでやらないとインドは変われないし、今変わらないとインドの明日はないとの認識が、一般人にも浸透しだしている。

 国会下院では過半数を占める与党インド人民党(BJP)も、上院では少数派だ。したがって上院の採択が必要な議案は、大統領令で通してしまう。最近の保険分野における外資比率引き上げなどもその一端だ。野党は独断と非難するが、国家利益のためには蛮勇を振るい、国民を納得させる。恐らく、あと1-2年で上院の勢力関係も逆転し、ねじれ現象は消滅するのではないか。それを見越しての強引な政策実行を国民が「是」とするのなら、野党の逆襲など取るに足りないものになる。

 昨年、大著「21世紀の資本」を発表し世界の注目を浴びたトマ・ピケティ、パリ経済学校教授は「世界経済に対して各国は徐々に小さな存在になっています。いっしょに意思決定をしなければならない」と説く。その世界にあって、BRICsの一員であるロシアやブラジルは苦境に立たされている。経済大国で、その国力を誇る中国だが、どの民主主義国が中国の現社会体制を喜んで受け入れ、自国制度を変えるだろうか。皆無のはずだ。そうなると、米国に次ぐ国力のある民主国家はインドということになる。その証か、インド最大の祝日日である共和国記念日(1月26日)の今年の主賓はオバマ米大統領だ。モディがグジャラート州首相のときには、米国はモディへのビザ発給を拒んでいる。その国のトップを今までの経緯は度外視し招き入れるしたたかさも兼ね備え持つ。外交面でも存在感を増しつつあり、国際社会での発言権も増す。

「Make in India(インドでモノづくりを)」と、経済基盤の拡充と政治のそれとをブレズにダブらせる。モディの勝利の方程式の形は見えてきている。

 

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