2018.04.29

中印首脳雪解け演出の意味

握手を交わすモディ首相と習近平国家主席(4月27日、中国湖北省武漢)

握手を交わすモディ首相と習近平国家主席(4月27日、中国湖北省武漢)

 4月27日から28日にかけて中国湖北省武漢で、中国の習近平国家主席とインドのモディ首相が会談し、常態化している両国国境紛争で事を起こさない、すなわち両国間の緊張緩和を進めることで合意したとの報道があった。

 中印貿易はインドの大幅な入超(赤字)のため、何とかして対中国輸出を増やしたいところだが、中国が過剰生産した鉄や太陽光パネルを始め、インドには価格的に太刀打ちできない製品が中国より流れ込んでいる。モディは中国に対し、アメリカが中国や日本に対し要求している貿易不均衡(米の大幅赤字)の是正要求をしたようにしてきたものの、中国の姿勢は一向に改まる兆しは見えなかった。ところが、一転して中国がインドに歩み寄った。これはトランプ米大統領の脅かし(中国の対米輸出の減少)が本当になる恐れもあり、そのための布石と考えておいた方が良い。

 中国の対米輸出減少は甚大なる打撃をもたらすが、その辺の穴を埋めるためには、それなりの経済規模のある国との貿易額を増加させざるを得ない。そのため、国境紛争の火種が絶えず、片貿易国のインドに対し秋波を送ったということだろう。

 それに対しモディは喜んで応じて見せた。その背景には来年5月に予定されているモディにとって再選が掛かるインド総選挙がある。早いもので、2014年5月にあらかたの予想を裏切り、下院での過半数を奪取し首相に上り詰めて早4年が過ぎようとしている。一介の州首相に国政が務めるはずはないとの辛辣な評論もあったが、内外におけるモディの存在は、予想を超えるものとなっている。私のインド人の友人などは、今までネルー・ガンディー家が累積してきた負の資産(汚職)の下での社会変革は並大抵のものではなく、言ったことの30%でもできれば御の字、とまで言っている。

 そのため、使える手は何でも使う、というのがモディの考えだろう。いかに国境紛争が絶えない相手国であろうが、自国にとってプラスになるのならば話に乗る。だが、ただ単に乗るだけではなく、それを梃に他国との交渉も優位に運ぼうという、同時並行的思考も巡らす。

 したがって、日本のビジネスマンは中印の緊張緩和を手放しで喜ぶのは時期尚早だ。日本に対し、自国(インド)に有利になるような規制緩和を求めてくること必然と思われる。そういった事態にいかに対応していくのかといった戦略を練っておかないと、場当たり的な対応に終始し、最後はインドにしてやられる。モディや習近平の微笑み外交の内に秘められた深謀遠慮を確と見極めることが必要だ。

武漢にある東湖で、言葉を交わすモディ首相と習近平国家主席(4月28日、中国湖北省)

武漢にある東湖で、言葉を交わすモディ首相と習近平国家主席(4月28日、中国湖北省)

 

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