先月8日夜のゴールデンタイムにモディ首相はテレビに生出演し、突然千ルピーと5百ルピーの高額紙幣廃止の発表を行った。同時刻帰国のためデリー国際空港ロビーを歩いていた私は異様な雰囲気を感じた。空港内に設置された全てのテレビモニターのどの画面を見てもモディ首相の生演説を映し出しているではないか。その表情は悲壮なまでに深刻であり、命を懸けた決断とその遂行を涙ながらに訴えているようだった。

 ヒンディー語が分からぬため、どれほどの演説かは俄かに判別しなかったが、翌日の新聞を見て事の重大さを思い知らされた。その結果、今もって大きな社会的混乱を引き起こしているが、それは単にモディ首相のスローガンであるクリーンインディア(ブラックマネーと汚職撲滅)やディジタルインディア(モバイル決済によるキャッシュレス社会)を目差しただけのものとは思われない。その背景にはモディ首相が公式には口に出来ないものも含まれているのではないかと勘ぐりたくもなった。

■銀行で旧紙幣の新紙幣への交換や預金引き出しのための長蛇の列

 その決意たるや凄まじい。タミルナドゥ州首席次官といった超高級官僚や実業家、関連する人たちの不正蓄財を暴いた逮捕が続き、選挙のための巨額資金が紙くずと化している。その一方で、闇のブローカーが旧紙幣を半値で叩いて新紙幣と交換している。しかし、その旧紙幣をどのようにして表で使えるようにするのか、ドロドロしたインドの社会構造の闇の深さに今更ながら驚かされる。

 今回の激震に関し、上記のような理由と共に考えられるものに、パキスタンとの関係や宿敵である国民会議派副総裁ラフル・ガンディー潰しが含まれているのではないか。巨額の偽ルピー紙幣がパキスタンからインドに流入し、インド金融の混乱要因になっていることは良く語られることで、その流通経路が国境紛争の絶えないカシミール地区であるとも言われている。偶然かも知れないが、11月8日以降カシミール地域は静かになっている。また、来年はモディ首相にとって2019年の総選挙の前哨戦となるインド最大の国会議員を抱え、またガンディー家の選挙基盤でもある北インド、ウッタル・プラデッシュ(UP)州の州議会選挙が予定されている。UP州議会選挙が無様な結果にでもなれば、与党インド人民党、すなわちモディ政権の将来が危ぶまれることになる。したがって、今のうちに政敵を徹底的に叩いておく必要がある。言い換えれば、巨額資金(裏金)を持つと思われるガンディー家の金庫爆破である。政治資金を失ったガンディー家は最早政治の表舞台に指導者としてい続けることが非常に難しくなろう。

 いろいろ考えてくると、モディが起こした今回の激震は、正にインド社会を変える劇薬とも言える。吉と出るか凶と出るか、世の中にはとてつもない、命がけの賭けを確信犯的にやる人がいるものだ。願わくは、モディの取った今回の決断が、インド社会の負の部分を20%、否、10%でも吹き飛ばしてくれたらと思う。

■TVに生出演して高額紙幣廃止を発表するモディ首相(11月8日)


 

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