2015.11.30

「宗教的不寛容」て、なんだ?

 牛肉を食べた疑いのあるイスラム教徒がリンチを受け死亡した事件があったが、そういった他宗教徒に対し、インドの人口の約8割を占めるヒンドゥー教徒が宗教上の不寛容をあらわにしているような新聞記事が最近、目に付く。例えば、インド映画界を代表するようなイスラム系のボリウッドスターであるアミール・カーンの「身の危険を感じるので、妻を数日間ムンバイから非難させたい」といった発言が報じられた。

 こういった事象を今までの一定のパターンにはめ込めば「政権を取ったインド人民党(BJP)の母体といわれる民族奉仕団(RSS)が標榜するヒンドゥー至上主義の押し付けで、他宗教を抑圧するもの」、すなわち「宗教的不寛容」となる。しかしそのまま受け取っていいものだろうか。余りにも通説的で、いまひとつしっくりこない。

■ボリウッド俳優アミール・カーン


 ここ数カ月間で起こったことに共通すると思われることは、「宗教的不寛容」を私的、または政治的に使っているような点だ。例えば、ボリウッドのキングといわれるシャー・ルク・カーン(SRK)の実質所有会社によるクリケットチーム、Knight Riders Sports株のモーリシャス籍企業への販売がインド外為運営法(FEMA)違反(マネーロンダリング?)の罪に問われ、SRK自身が今月、当局より3時間にわたり事情聴取されたという報道があった。そのSRKも「宗教的不寛容」を持ち出し、社会問題だとしてマスコミの耳目を集めている。

 また、「宗教的不寛容」を懸念し、インドの将来が不安であるのに政治的動きをしない政府を批判、インド国家勲章の返還を宣言している著名な学者も出ている。この学者の支持政党は国民会議派とのことだ。インドの友人に言わせれば、「今回起こっていることは今更始まったことではなく、インドの持つ永遠の課題だ」とのこと。

 そう言われればそうだとうなずかざるを得ない。世界中どこを見ても類似の問題は日常的に起こっている。米国では名門白人大学(ミズーリ大学)の黒人蔑視問題が引き金となり、ティム・ウルフ総長が今月、辞任に追い込まれた。ミズーリ州では昨年8月、丸腰の黒人青年が白人警官に射殺されている。また、スイスでは今年9月28日、同国国民会議(下院)でイスラム教徒の女性の顔や体を覆う衣装「ブルカ」や「ニカブ」の公共の場での着用を禁止する法案が賛成多数で可決した。その一方でインドでは、イスラム教徒の一夫多妻制度を合法とし、憲法の二重人格的運用を行っている。なんと寛容なことか。

 こう見てくると、ある意味マスコミの偏重報道とも思えなくは無い。ではなぜマスコミは反モディ的姿勢をとるのか。それは彼らがmiddle man(仲介人)としての地位を剥奪されたかららしい。どういうことかというと、モディ首相は新聞記者などが勝手に省庁に出入りすることを禁じたらしい。従来なら、役人や省庁トップの政治家とねんごろになり、内密な話を聞きだし、それをネタに小遣い銭(または、巨額資金)を稼いでいたのがダメになってしまい、モディを逆恨みしているとのことだ。もしこのことが本当なら、モディが目指すインドを根底から変える、といっていることの信憑性が増す。しかし、その意志を通すことがどれほど難しいかを、昨今の出来事は教えてくれているような気がしてならない。

 

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