2015.05.16

モディの中国訪問、多極化への道

大雁塔を訪問して、握手を交わすモディ首相と習近平国家主席(5月14日、中国・西安)

大雁塔を訪問して、握手を交わすモディ首相と習近平国家主席(5月14日、中国・西安)

 中国の習近平国家主席は14日、自分の本籍地であり青年期を過ごした故郷、陝西省西安でモディを出迎えた。破格の待遇とのこと。それもそのはず、習主席が昨年9月、インドを訪れたときにはモディが、自身の出身地であるグジャラート州のアーメダバードで出迎えており、現下の国際情勢を考えれば驚くに足りない。

 中国はロシアとの友好関係を演出して見せておいて、日米にも秋波を送るインドとの関係強化を演じてみせる。モディはそれに乗った形で、インドの存在を世界中にアピールしてみせる。やきもきするのは日米ではないか。欧米は中印に猫なで声で擦り寄ってきていて、両国がより緊密になろうが危機感は前面には出てこない。

 モディの中国での発言は問題をシンプル化しておいて、相手のコートにボールを打ち込むスタイルである。どこかに「言語明瞭意味不明」といわれた首相がいたが、それでは国際政治の世界では通らないだろう。リーダーとして言うべきことは言い、自国に有利な状況を作り出す。例えば、中印国境紛争は解決しておらず、両軍が対峙しているのが現状だが、「両国の限りない将来の発展を考えれば、国境問題を早期に解決し、もっと重要なことにヒト・モノ・カネを使いましょう」とやる。そして、貿易不均衡(インドの大幅出超。年間約5兆円)是正のための対印投資拡大を要請した。貿易赤字をFDI(対印直接投資)で消すほうがインドにとって得策だ。国家安全保障では、国連の安全保障理事会常任理事国や原子力供給国グループ(NSG)入りに対する支持を呼びかけた。また、世界の3割強の人口を占める両国民の交流が欠かせないとし、インターネットによるビザの発給を中国民にも拡大すると明言した。結果が出なければ、ボールを打ち返してこない相手が悪いことになる。

 まさに、米国の政治学者、イアン・ブレマーが名付けた「Gゼロ(世界のリーダー役不在)」の世界における外交の方向性で、ブレマーに言わせれば「適応力があり、リスクや攻撃への防衛力を備えた国が勝者となり、変化する現状を受け入れられない国が敗者」となり、ダーウィンの進化論では「生き残れるのは強いものではなく、変われるもの」となる。

 混迷する世界情勢の中でインドにとっての救いは、有言実行のリーダーを得たことだろう。変わらないほうが楽だ。しかし落ちこぼれてしまう。公言したら、実行責任がついて回る。世界のリーダーが不在となり多極化する現状では、国益を堅持するための明確な外交手腕を持つ自国リーダーが必要だ。昨年5月、政権交代を選択したインド国民の判断の妥当性が試されている毎日だが、今のところ「否」との声はか細いものだ。

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